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元クズ田中

左手の先にあるもの・元クズ田中

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公開日: 2017/02/24

セブについての問い合わせのなかでもっとも多いのは、『実際のところ治安はどうなんでしょうか』というもので、これに対する模範解答は、「セブはマニラやその他の東南アジアに比べても比較的、治安の良いところですが、それでも日本とは違いますので最低限の注意は必要かと思います」なのだけど、安全と言われる日本だってなにが起こるかわからないわけで(というか見ず知らずの人間にブスッとやられるリスクは日本のほうが高いのでは)、世界のどこにいたって注意するにこしたことはない。いつだって相手に背後を取らせないゴルゴ13のように臆病でいるべきではあるのだけど、危機というのは予期せぬタイミングで襲ってくるからこそ怖いのである。

 

その日、自分はセブの自宅の近所にある友人の家で飲んでいた。本当は外に飲みに出たかったのだけど、友人はフィリピン人の彼女と一緒に暮らしている。誰がどうやって調べたのかは知らないが、とある調査結果によるとフィリピン人女性は世界イチ嫉妬深いそうで、外に飲みに行くというとそれだけで浮気を疑われるとのこと。というわけで、家でまったり焼酎を飲んでいた。

 

ジンロの水割りにカラマンシーという、シークワァーサーのような柑橘の果汁を入れたものを飲みながら、普段はあまり話さない仕事の悩み話などを話していたら、気がつけばもう明け方の4時になっていた。

 

明日も仕事だし、そろそろ帰りますよ。そう言うと、まだボトルに半分ほど焼酎の残ったジンロを持って帰っていいという。それじゃあ、お言葉に甘えてもらっていきますね。そういってボトルを右手にもって、友人の家を出たのだった。

 

友人の家から自宅までは徒歩で7分ほど。普段は基本的にタクシーやバイクで移動しているのだけど、その日は酒を飲むことが決まっていたので歩いてきていた。まあ、いつも通っている道だし酔い覚ましもかねて、歩いて帰ればちょうどいいやと思いながら自宅に向かっていたら、歩きだして1分もたたないうちに大通りを隔てた向こうから、若いフィリピン人の男がこちらに歩いてきた。

 

人通りも車通りもないこんな時間帯になにやっているんだろうな。一瞬そんなことを考えたが、こちとら飲みすぎてべろんべろんである。特に気にもせず歩いていたら、男はずんずんとこちらに向かってきて、自分に向かって現地語でなにやら話しかけてきた。

 

英語ならまだしも現地語などまったくわからないわけで、とりあえず適当にあーとかうんとか言いながら相槌をうっていたわけだが、ふと男の左手に視線を移すと、見慣れないものが目に飛び込んできた。えーと、それって拳銃ですよね?

 

左手に拳銃を持ったまま、現地語でまくしたてるように話かけてくる男の顔を見ながら、あることを思いだした。この通りは過去にも朝方に強盗事件が発生していて、抵抗をした外国人が強盗に撃たれたことがある。もしかして、これってそのパターンなんじゃ……。

 

フィリピンでの銃所持はライセンスを持っていないとNGだが、セブから車で1時間ほど北に走ったところにあるダナオというところは、町ぐるみで密造拳銃をつくっている。2万円も出せば手作りの拳銃が違法に買えるわけで、男の持っている拳銃も恐らくは本物。ここは大人しく財布を差し出すべきだとは思ったのだけど、その男がずっと英語ではなく現地語で話しているものだから、なにを言っているのかさっぱりわからないのである。

 

 

銃口をコチラに突きつけているわけではなく、左手は下がったまま。もしかしたら世間話をしているだけかもしれないわけで、そんなやつにいきなり財布を差し出したら、かえって神経を逆なでするかもしれない。さてどうしようかなあ。でも、こいつの話を黙って聞いているのも面倒くさくなってきたなあ。話が長いし酔いもさめてきたから、ジンロ飲んじゃおうかなあ。そんなことを考えながら適当にへらへらと話に頷いていたら、その男のツレがやってきて、英語で男にこういった。

 

おい、お前なにやってんだよ。早くしろよ‼

 

男はそれに対して、英語でツレにこう伝えた。

 

ダメだ、こいつ。信じられないほど酔ってやがる。話が通じやしねえ。おい、お前もういいから帰れ。ふらふらだから気をつけて帰れよ。

 

そう言って暗い路地に消えていった。

 

というわけでセブの治安に対する答えは、『深夜や薄暗い朝方にひとりでうろうろ歩かなければ大丈夫』。僕もあれ以降、深夜から朝方にかけては近距離でもタクシーに乗るようしてから危ない目には一切あっていないが、万が一、そういった場面に出くわしてしまったら抵抗することなく有り金を差し出すのが吉。来週からガイドの先輩がセブに遊びにくるけれど、朝方のひとり歩きだけはしないよう注意したいと思います。

 

しかし、強盗にも心配されるほどの酔い方ってなんだよ……。

 

※ご迷惑、ご心配をかけないよう、これ以降はしっかり気をつけていますのでお許しを。

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