第三回「みらいの輪」~パチンコ店経営者に突撃インタビュー~キスケ株式会社
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レジャーの多様化とともにパチンコ・パチスロ離れもめまぐるしい。
とかく、依存問題や子供の放置事件などマイナスのイメージを植え付けられているパチンコ業界。
半世紀以上続き就労人口も20万人超という規模だが、世間の風当たりは強い。
様々な要因で店舗数もどんどん減少しており、逆風の只中にいる。
そんな苦境だらけの時代に突き進むパチンコホール経営者の生きざま、考え方について深堀していく。
更新日: 2023/02/07
Contents
大衆娯楽のパチンコ業界。その文化を未来へ紡ぐため、2020年10月に2つの業界団体が合併し成立したMIRAI(一般社団法人MIRAIパチンコ産業連盟)。
本企画はそのMIRAIで活躍する各企業のキーマンにフォーカス。パチンコホールの経営者の生い立ちや普段聞けない生の声を独占インタビューする。
山路 大助副社長 |
キスケ株式会社 |
1983年4月8日生まれ |
パチンコ業界の経営者に話を聞く「みらいの輪」。
第三回は創業者の名前を社名にし、愛媛県で温泉・ボウリング・カラオケさらにはシャトレーゼなど新規事業にも積極的に挑戦している、キスケ株式会社の山路副社長にお話しを聞いてみた。
同社は新事業だけではなくSDGsや地元への還元を積極的に取り組んでおり、また社員やアルバイトの福利厚生など働くスタッフにも手厚い企業だ。
建築からパチンコへ。「非日常」ではなく「超日常」を目指す若き経営者
DMM:本日はお忙しいところお時間いただきましてありがとうございます。よろしくお願い致します。
山路副社長:よろしくお願いします。
DMM:早速ですが、山路副社長のプロフィールをお教えください。
山路副社長:私は1983年4月8日生まれで2006年4月にキスケに入社しました。
DMM:では、大学を卒業されてすぐに入社されたのですね。子供のころの将来像や夢についてお聞かせ下さい。
山路副社長:そうですね。小さいころから会社(キスケ)に入り、家業を継ぐというイメージがありました。ただ絵を描いたり工作やガンプラ(ガンダムのプラモデル)を作ったりするのも好きで、ものすごく大量に作った記憶がありますね。最終的には会社に入る事を決めていたので、大学等は自由に行かせてもらっていました。専攻は全然違う分野で、建築系の学部に行ってましたね。
DMM:意外なご経歴ですね。では、建築系の学部に進学した経験を活かして、現在のお店の内外装、デザイン設計に関わる事もあるのですか?
山路副社長:島図を書くのは好きですね。PAO 東雲店はガッツリ書きましたね(笑)。
DMM:すごいですね。その島図をもとに設計会社が施工されたのですね。自分でお店作りに関われるのは面白そうですね。他のホール企業でも「非日常」を演出し、お客様に楽しんでいただく事はありますが、貴社のお店は居心地が良く、とてもアットホームに感じました。
山路副社長:ありがとうございます。そうですね、そこで言うと「非日常」と「超日常」という言葉がありまして。「非日常」は日常と違った空間や高揚感を楽しむ事なのですが、我々は地方の会社ですから「超日常」、「いつも通りの心地良さ」を目指しています。特に温泉に毎日来られるお客様がいらっしゃるのですが、家のような心地良さでうちの会社とお店を使っていただく、我々スタッフと家族のような関係性の両方で「超日常」を感じていただいていると思っています。パチンコでもご来店されるお客様のお名前をスタッフが覚えて、それぞれのお客様に対応した接客をさせていただいたりと、やっていることは割と泥臭いところもありますね。
DMM:なるほど「超日常」ですか。アットホームなお店だと本当に自分の家のようにくつろげますね。山路副社長のご入社は新卒のタイミングですが、他社に行かずにご入社されたきっかけは何かあるのですか?
山路副社長:大学在学中に異業種で内定を貰っていたのですが、創業者である祖母(山路 照子氏)が体調を悪くしてしまって急遽愛媛県に帰って来たのです。そして一緒に暮らすことになりました。社会人になって初めて孫とお婆ちゃんとの2人暮らしです。
DMM:そうなのですね。そこで経営について直接学んだのですか?
山路副社:いえ、経営についてというより物事の「考え方」について学びましたね。
DMM:師弟関係のようですね。創業者から直々に学ぶというと厳しそうですね?
山路副社長:両極端ですね(笑)ズルい事とか不正にはとてつもなく厳しくて。しかし、子供とか家族の事となると、とても優しいですね。
DMM:そういう「考え方」の学びは貴重な体験ですね。
そのご経験も反映されていると思うのですが、トップメッセージに【「財務基盤」「人的資本」を共有し、キスケブランドを 磨いていくとありました。こちらはパチンコ事業の優秀な人材が他事業の開拓、 投資などを行うための準備ということでしょうか?
山路副社長:それが理想なのですが、うちはある程度の役職者になると他の事業部との異動が少なくなってきます。ただ財務的な流れは決めていて、パチンコの収益をエンタメで「遊び要素『社会性』」で表現して、不動産で安定収益化し、さらに新規事業に投資する、と流れはシンプルにしています。
温泉やエンターテインメント事業(KIT・KIT PLAYなどの幅広い年齢層が楽しめる複合施設)を通して地域余暇の創出といった地域貢献をして、不動産で一定収入も得ながらSDGsやシャトレーゼ(工場直送の洋菓子販売店)などの新事業を始めたり、パチンコだけの単一事業だけでは無いのが弊社の強みだと思います。また、安定した財務なので安心して働けるのも良い事だと思います。
そして、パチンコは規制が厳しく、エンタメは規制が少ないという違いがあります。そこで規制の少ない業種と規制が厳しい業種と意見が混ざると、意外に面白い発想や工夫が生まれることがあります。エンタメにはパチンコのように制限がある場合においてどうやって伝えるかという、パチンコで培われた手法が役に立つ時があったり、パチンコにはエンタメの制限のない発想が役に立つ事があります。
左:キスケBOX3FのKIT PLAY内。子供用のプレイルーム。19種のクライミングや電動カート等充実した遊び場が提供されている
右:KIT内。カラオケ、レンタルステージ、ダーツや卓球等、体を動かす施設も完備
働き方の自由は発想の自由にもつながる
DMM:そうですね、我々パチンコ業界だと規制があるので「どうせこれはダメだし」という先入観があり最初からあきらめてしまう事がありますよね。
山路副社長:エンタメだと(集客の為に)クーポンを出しても良い、一品サービスしても良い、なんて発想も出ますが、パチンコはNGですからね。我々は社内のチャットでコミュニケーションをとっているのですが、パチンコ、エンタメグループ問わず色々意見が出ますね。
DMM:結構、横串と言うか部署を超えたコミュニケーションを取られているのですか?
山路副社長:そうですね、横串は多いです。会員管理は特に多いですね。システムでつなげたら一番良いのですが、パチンコは難しいので、それ以外のエンタメは連携して便利に使えるようにしています。
DMM:ありがとうございます。安定して働けること、部署の境界を越えての意見交換は人的資本の醸成には最適なのですね。人の繋がりや福利厚生の面でも社内の交流会や研修制度等、人財育成や結束力の強化に力を入れられていますが、福利厚生やワークライフバランスなどについてお考えを聞かせください。
山路副社長:スタッフ一人ひとりが、「キスケにいて良かったなと感じること」が私の理想ですので、福利厚生もその一助になると思っています。 特に自社施設を無料で使えるのは強みですね。温泉は勤務後に入る人もいますし、ご家族も割引料金で利用できます。ボウリングやカラオケも時間制限はありますが、こちらも無料利用可能で社員もアルバイトさんでも使えます。
他には、時短勤務で早番だけとか、お子さんがいるので遅く出勤したいなど自由にシフトを組めるようにしています。また、ダブルワークも認めています。うちで社員として勤務する傍ら副業でアルバイトをしたり、うちを含め2社で社員として働く人もいます。
会社として副業はOKです。副業によってその人の経験や収入が増え、その人の人生、家庭が豊かになるなら会社はそのサポートをドンドンしますよ、というスタンスですね。
既に取り組んでいたことが実はSDGsだった!
DMM:今の時代の中でも先を進んでいる印象ですね。世間でも副業が認められたのは本当にごく最近のイメージでした。先を見越した流れではSDGsにも積極的に取り組んでいらっしゃいますが、それ以外でも活動されていることや今後行う予定のプロジェクトはありますか?
山路副社長:4つのテーマに基づいて、今年の4月から愛媛県のSDGs推進企業に登録しています。
ただ、SDGsで新しく始めた事もありますが、多くは今までうちがやっていたことをSDGsに当てはめられるよね、と再認識したことがほとんどです。
駐車場を地域のお祭り会場にしようとか、地域貢献しましょうとか、やっていたものが整理整頓するとSDGsなっていました。
副業、新しい働き方も人財面でのSDGsですし、改めて負荷を増やすことなくSDGsが達成できていたんだよね、という自己肯定みたいな側面が大きかったです。1回整理をすると新しくこれもできるんじゃないですか?というアイデアも次々に出てくるんですよ。
DMM:ありがとうございます。元々されていたことが実はSDGsだったというのは、考え方が時代を先取りしていたのですね。
同じように業界全体で取り組むべき事などのアイデアなどはありますか?
山路副社長:そうですね、私は今年の6月に遊技機リサイクルの工場を視察させていただきました。遊技機の木枠も粉砕して家具に使われるような合板にリサイクルしており、ほぼ100%リサイクル出来ているのは業界として大変素晴らしいと思いました。こんなにキッチリとリサイクルしている業種はそんなに多くないのではないかなと感じました。ただ、私も見学するまでは知らなかったので、業界内でもまだ知らない方は多いと思います。
業界内外の広報はまだまだ必要ですが、何より知ったことを自社内に広めることが重要だと思いました。
あとは地域との関係性を強くできると考えているのが「企業版ふるさと納税」なんですが、これを実現できないかなと今勉強しているところです。
DMM:ありがとうございます。「企業版ふるさと納税」興味深いですね。実現できると業界の地位向上にも繋がれるかもしれないですね。
ところで、事前に耳にしていたのですが採用関連に関する全てのイベントに山路副社長ご自身が出席しているとお聞きしましたが、その想いとは何なのでしょうか?
山路副社長:そうですね、流石にすべてには出なくなったのですが、昔は私が全て企画して合説イベントもやり、ブースにも立っていました。今は採用するスタッフも育ってきたので委譲していますが、要所で私も出ております。
私が出席する理由の1つとして、社長の姿が見えるのが中小企業の良い点だと思っているからです。経営陣を見てもらって、会社を見ていただきたい、私自身も採用する人を見てみたいと思っています。まず見て判断する。判断材料を少しでも多く学生に渡そうとイベントに出たり直接質問を受けたりしています。
「スタッフ一人ひとりが、キスケにいてよかったなと感じること」が私の理想ですので、地域に遊びを提供するのと同様に、地域の人を採用して、良い人材を輩出することで、地域と人財の関わりを増やしていきたいという想いです。
オリジナルの商品開発で、持って帰って貰える思い出を!
DMM:ありがとうございます。『KISUKE BASIC』や使命、行動指針、働き方の定義などでお客様や現場を優先に考えつつも、社員一人ひとりの自立や充足働きやすさなども感じられますね。現場のアルバイトや社員発の新しいアイデアを取り入れた事例などはありますか?
山路副社長:アイデアを出すためには話合いも良いですが、色々視察に行くことが重要だと思います。今でこそ、コロナの影響で視察に行かなくても、ネットで情報が入るようになりましたが、やはり一次情報が一番です。東京などへの出張旅費は地方企業として昔から多い方だと思っています。流行っているお店に行ってもらい、良いサービスを体験しよう、と言っていたのです。そうすることで、「あそこのお店のこのサービスをやりたい」とかアイデアの引き出しが増えてきます。そういう機会を作っていましたね。
あとは現場から各プロジェクトの実行(賞品・会員・社内行事・SUMMIT → スイーツの開発、お客様とのコミュニケーション方法、イベントの企画・運営等)について定期的に会議をしています。
地元の美味しいケーキ屋さんとコラボレーションしてプライベートブランド賞品を販売するなど、他の店舗がしていない事にも力を入れています。
PB(プライベートブランド)賞品の『きゅーとなminiタルト』
プレスリリースすると業界誌などでも取り上げられて、業界内では当たり前の事ではないことだと知り、改めてキスケの強みだと実感することもあります。
一般的なパチンコの賞品の場合、何を仕入れてどう売るか、しか入り込める余地がありません。自分たちが企画して賞品を作ることで一気に仕事として面白くなります。チョコ味をどんなチョコ味にしようかとか、どこの産地のフルーツを使うか決めることで全然売り出し方も変わってきます。仕事の幅が広がり自由度が増します。自由度が高い仕事の方が私は楽しいと思っているのです。接客は店舗の出口で終わりになりますが、我々のパチンコで唯一家まで持って帰って貰えるのがスイーツ等の賞品です。家で我々のサービスが良かったとか、お店での体験が面白かったとか、賞品を楽しみながら会話していただきたい、そこは利益重視ではなくやりたいと考えています。
お客様が次に来店された時に「あれ美味しかったよ」と言われると良い循環になると考えています。
DMM:私が子供の頃、父親がパチンコに行くとお菓子を持って帰ってくれることがあり、パチンコに行くと言うと「またお菓子にありつける」と嬉しくなりましたね。今の子供たちはそのような経験が少ないかもしれないですよね。今までのお話を伺うと本当に順風満帆に感じられますが、現在の貴社に課題はあるのでしょうか?
山路副社長:安定しているがゆえに、のんびりしてしまうことはあるかもしれません。ただ、ピリピリし続けるより危機感なく働けることは良いことだとも思っています。
そんな中でも、削減できることは削減して、改善できることは改善していきましょうと、それぞれ意見を各店舗で出しあっています。何件改善して、年間何時間の時間が効率化された、改善されたと各自が出してます。昨年度は1年間で1000件以上の改善をしています。各店舗で競争するように楽しく取り組んでいます。
DMM:その1000件以上の改善実行は経費などが中心なのですか?
山路副社長:もちろん経費の改善もありますが、大部分は本当に小さい行動の改善の積み重ねです。「雑巾の絞り方を変えた」とか「店舗の巡回ルートを変えた」とか本当に細かい事が多いです。しかし、週10分の改善も積み重ねると大きな時間、費用になってきます。
DMM:色々な案が出る中で、ボツになる提案もあるのですか?
山路副社長:もちろんあります。昨年度は提出が1500件、実行が1100件くらいですから、2割から3割はそのままでは使えないアイデアもありますね。
衝撃が走った学生の言葉
DMM:でも自由な発言が垣根無く飛び交うのは風通しが良い証拠ですね。その環境の中で、今後副社長が成し遂げたい事っていかがでしょう?
山路副社長:私は自分の理想は決めていて、事業としては「鮮やかな場所と時間を提供し繋がりを生むことでお客様の人生を豊かにすること」です。組織としては「従業員一人ひとりがキスケに居て良かったなと思っている」状態、そこに行くのが理想だと思っています。
DMM:なるほど。お客様の人生を豊かにですね。そこで繋がると思うのですが、ホームページで『愛媛で一番の喜び、思い出想像カンパニー』というキャッチフレーズを拝見したのですが、具体的な思い出を感じてもらう事についてお聞かせください。
山路副社長:3年前に今治のカラオケ店を閉店したのですが、その時に学生から店舗宛に手紙が届きました。その手紙の「ここのカラオケがあったから友達とすごく仲良くなれました。思い出をありがとうございました」という言葉に頭をガツンと打たれたような感覚になりました。カラオケ店が無くなって残念だというお声ではなくて、この店でできた思い出が凄く良かったというご意見が本当に嬉しかったのです。カラオケを通じて友達ができたとか、色々な思い出が生まれたとか、初めて我々が提供している価値がカラオケ、パチンコ、温泉、ボウリングということではなくて、どうやって人と繋がり素敵な体験や思い出を残すことができるかだと理解したのです。
『喜び、思い出想像カンパニー』の「喜び」は『キスケ』の「喜」で、ずっと我々が提供しているもので、最終的に残って欲しいのは「思い出」なのです。
あの時楽しかったよね、スタッフと仲良くなれたとか、お客さん同士がつながったとか、友達ができたとか、子供と良い思い出ができたとか、我々の店舗がそういう場所であれたならなという事ですね。
DMM:なるほど。キスケじゃないとその「思い出」が創れなかった、と思って貰えたら最高ですね。
山路副社長:そうです。お客様にどうすれば思い出が生まれやすい状況がつくれるか、それが接客の一部だと思っています。今もお客様との関係値は深いと思いますよ。お客様が入院されるからみんなで寄せ書きを書いたりだとか、退院したらお祝いしたりだとか、それって家族のような「超日常」ですよね。
そのような接客をしないでいい、という人もいるかもしれませんが、我々はそういった接客やサービスが好きなのです。パチンコはどこに行っても同じ機種を打てますから、どうせ行くならキスケに行きたい、と我々を選んでいただけると大変嬉しいですね。
DMM:ありがとうございます。これからのSDGsや「企業版ふるさと納税」など、新しい取り組みが成功して広がるとますます面白くなりそうですね。今後も期待しております。
誰もが遊べるおもちゃ箱
松山城の膝元にあるキスケBOXは、JR松山駅の正面に堂々と構えるランドマーク。
JR松山駅からキスケBOXのロケーション。後方には松山城が見える
JR松山駅ロータリー側からのキスケBOX図
パチンコ・カラオケ・麻雀・ボウリングやボルダリング、温泉に食事など、他老若男女問わず思い切り遊べるコンテンツを詰め込んだおもちゃ箱のような施設。
店長他役職の如何に関わらず、社員やアルバイトも忌憚のない意見を交わし、働き方の自由度など業界を問わず開けた風通しの良い職場環境は驚くばかりだ。
働く側も利用する顧客も喜びと創造・思い出を共有できるキスケの「超日常」。
縛られない新しい風を取りいれるキスケにこれからも期待できそうだ。
引用元:Google社「Google マップ、Google Earth」
https://www.google.com/intl/ja/permissions/geoguidelines/