この中にお医者様はいらっしゃいませんか

　この中にお医者様はいらっしゃいませんか。これはテレビドラマや映画、バラエティ番組の再現でのみ聞けるものだと思っていましたが、つい先日、私が乗った国内線で急病患者が出たらしく、五十五年の人生で初めてナマのお医者様はいらっしゃいませんかを聞くことができました。ただ、実際にはCAが声を張り上げて言うのではなく、機内アナウンスで流れただけなので仰天ニュースで見るそれとは少し違いました。

※以前、日航健保に入っていたので私はJAL派です。

　大丈夫だろうか。恐らく乗客のほとんどは患者の身を案じたはずです。無論、私もそのひとりですが、それとは別にもうひとつ、ちゃんと時間通りに羽田に着くだろうかという我が身を案じての大丈夫だろうかもありました。だってほら、セントレア空港に緊急着陸するとか言われたら海に眠るダイヤモンドのオンエアに間に合わないじゃないですか。って、こういうことを書くと不謹慎だとか言われそうですが、ほとんどの方は心の片隅で私と同じことを考えているはずなので演者活動の無期限休止は致しませんし、二度のオフ会で小銭を拾いに行くような真似も致しませんし、念のため言っておくと私は不謹慎を否定も肯定も致しません。

※アテンションプリーズ

　ちょっと自分でも何を言っているのかよく分からなくなってきたので話を戻しましょう。私が乗ったフライトの急患は数分で容態が安定したため大丈夫だったというか、海に眠るダイヤモンドはオンタイムで観ることができたのですが、以前、心臓外科医である私の弟が国際線の機内でドクターコールを聞いたときは手を上げようか上げまいか、当時はプロレスで言うところのヤングライオンだったこともあり、スーパーリノの三択くらい悩んだそうです。もっとも、悩んでいる間に他の医師がスッと名乗り出て、いや、飛行機だけに登場して事なきを得たそうですが。

　弟が言うには飛行機の中でドクターコールを聞いたのは後にも先にもこの一度きり。これを聴くととてもマイルからできることなら聞きたくないとのことでしたが、独身の頃、都内の高級ホテルで開かれた男性無料の婚活パーティーの場ではCAの「この中にお医者様はいらっしゃいませんか」を何度か聞いたことがあるそうです。

※羽田空港のさくらラウンジでなにかに憑りつかれたように柿の種を食っているオジがいたら、それは多分彼です。