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塾長

クソ野郎

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公開日: 2016/05/18

 風鈴も氷もバンバン落ちる、いわゆるいい台。最初の千円で56G回ったときは結婚してもいい、いや、同じ墓に入ってもいいとさえ思いましたが、肝心のボーナスがまるで引けません。2万使ってビッグ1回のバケ4回。いつ終わるとも知れぬ買い足し地獄に辟易していたこともあり、まだ1Gも回っていない左隣の台、言い換えるなら無限の可能性に満ち溢れた台に移動しました。

 

 結果、1万使ってノーボーナス。無限の可能性があるのは買い足しだということに気付き、元の台に戻ろうと思ったのですが、人が座っていたのでは戻れません。戻りたい、戻れない、中森明菜の心境です。

 

 ハナビで総投資3万は危険信号。設定1でもフル攻略なら浮きが出るとは言いますが、3万勝てるとはどの攻略誌にも書いてありませんし、そもそもあれは10万日シミュレーションから弾き出された数値です。約273年と10ヵ月、毎日朝から晩までハナビを打てば設定1でも勝てるということなのです。明日、死ぬかも知れないのになに言ってんだって話です。

 

 どうしよう。そう思ったときには稼働も上がってきて目ぼしい移動先が見つかりません。仕方なし、1万使ってノーボーナスの台を打ち続けたところ、どういうわけか最初に打っていた台が大爆発。ドル箱をひとつ、ふたつと積み上げていく様をアリーナ最前列で見なければならないこの苦しみたるや、拷問と呼ぶに相応しいと思います。帰りたい、帰れない、松田聖子の心境です。

 こうなるとどうしたって心も荒んできます。とりわけ、後輩におちょこ五島と言われる俺ですから隣の台からビッグが揃った音が聞こえてくるたび、クソ野郎とか、2千ゲームくらいハマれとか思います。もっと言うならハナビを2千円くらい打ってはヤメていく謎の老人を尾行して、リーチ目を拾ってやろうかくらいのことも考えます。最低です。超がつくほど最低ですが、これがカマを掘られた人間の素直な気持ちだと思うのです。

 隣の台が3箱目に手を掛けたそのとき、ようやく俺の台に赤七確定のリーチ目が出ました。するとどうしたことか、俺のカマを掘ったクソ野郎が満面の笑みを浮かべて「うん、うん」と頷いたのです。言葉は交わさずともその頷きがおめでとうを意味していることは分かります。心の中でクソ野郎などと罵ってごめんなさい。クソ野郎は俺でした。あなたはひとつも悪くない、悪いのはその台で出せなかった俺の腐った右腕です。はい、おしまい。

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