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元クズ田中

いつかのために

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公開日: 2020/07/10

「コンビニのお弁当を買ってもらえませんか?」

 

道を歩いていたら、知らないおばさんに急に話しかけられた。

 

コロナ第2波の到来かと言われながらも、東京の繁華街は人であふれ、見渡す限り何百人が歩いているにもかかわらず、おばさんは一目散に僕のところにやってきて、そう言った。

 

僕の顔が無防備であったなら、まだわかる。柔和な、(見た目だけは)良い人が滲みでているその表情をみてのアタックならば理解できるが、もちろん僕はマスクで顔を隠しているわけで、僕の表情を読み取ることはできなかったはずだ。なぜおばさんは、僕をターゲットにしたのだろう。僕の身体から、こいつは買ってくれそうというなにかが出ているのだろうか。

 

実際、この日は急いでいたのでお弁当は買わなかったが、僕はこういった人に声をかけられるケースがとても多い。これまで日本でもセブでも、何人もの人に食料やお酒をねだられ買ってきた。セブの街中には僕のことを知っているホームレス家族が何組かいて、信号待ちでバイクにまたがる僕を見つけると、ガッツポーズをしながら走ってくるほどだ。

 

とはいえ、僕自身は彼らに対して上から目線で施しをしてあげているなんていう意識はないし、いま手持ちのある人がとりあえず出しておけばいいと、周り巡ってそれが自分に戻ってくると思っているだけなのだけど、少しして、今度はパチンコ屋で声をかけられた。

 

珍しくドン2でサクッと連チャンし、箱に多少のコインは入っていたのだけど、そのジイさんは僕のところにきて、こう言った。

 

「帰りの電車賃がないので、コイン25枚だけくれませんか」

 

5.6枚交換が主流の都内において、たった25枚で特殊景品に交換なんてできるのか疑わしいが、僕は知っている。こういうジイさんは過去にも何人かいて、本当はたばこが欲しいのだ。ただ、ストレートにたばこに交換したいと言っても大半の人はくれないだろうから、同情を誘うために電車賃がほしいと言っているわけだ。

 

 

 

 

何度かこういうジイさんにコインをあげたことがあったので、まあいいかと、たばこくらい吸いなさいよという気持ちで、騙されたふりをして25枚あげたら、ジイさんは申し訳なさそうな顔をして去っていった。

 

きっと、後をつければ景品カウンターでタバコを取っているのだろうが、それをするのは野暮ってものだ。というわけで景品カウンターとは反対の方向にあるトイレにでも行こうかとホールを歩いていたら、さっきのジイさんが25枚を握りしめてジャグラーを打っていた。

 

ジイさん、わかる。オレも通ってきた道だ。25枚を増やせさえすればすべてが解決するじゃないかという考え方は痛いほどわかるが、その作戦はまず成功しないんだって。

 

まあ、いい。いつかは僕が逆の立場になってコインをねだっているかもしれないわけで、できることは、いまのうちにしておこうじゃないか。そしてやっぱり僕も、いつか25枚をもらったときには、たばこではなくジャグラーで勝負をするのだと思う。

 

 

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