引退前夜
記事一覧へ公開日: 2020/07/22
ジャニーズの滝沢秀明はプロデュース業に専念するため表舞台から身を引き、グリーンウェルは神のお告げによって引退。千代の富士は体力の限界を感じて角界を去るなど、人によって引退の理由やタイミングというのは様々である。
人はなぜ、引退するのだろう。タピオカ騒動に終止符をうつため。普通の女の子に戻りたいから。王貞治のバッティングができなくなったから。理由はそれぞれだが、自分のなかで明確な区切りをつけて次の人生を歩むために、引退という、あえてしなくてもいいはずの宣言をするのかもしれない。
誰も覚えちゃいないと思うが、1月19日の「パラサイト」というタイトルの投稿内で、僕はこんなことを書いた。
『2020年に僕がすべきは、パチスロ業界から完全に消えること。業界をリスペクトしているからこそ、そこに依存したパラサイト生活を終わらせることを目指したい』
これは、偽らざる僕の本音だった。そんなことないよとか、必要だぞとか、そういう言葉を求めての構ってちゃん発言ではないことをお伝えしたうえで言わせてもらうと、フィリピンに移住した2011年からいままでずっと、後ろめたい気持ちを抱えてきた。
パチスロを打てない、打たない僕が、偉そうなことを書いていていいのだろうか。小手先の文章でお茶を濁しているだけじゃないだろうか。そんな葛藤を抱えながらも、この原稿料があれば家賃を払うことができる。自身がやっているNPO法人の負担を抑えることができる。そんな打算的な考えが頭をよぎり、いつかそのうちと先延ばしにしながら膨らんだ思いが、「あんたの文章ツマらないっすね」という誰かの一言で、パンとはじけた。
まあ、あまりこういうぶっちゃけ話をすると、お前そんなこと書くんじゃねーよバカと周りに怒られたりもするわけだが、思ったことを包み隠さずすべて吐き出すのが僕のスタイルでもある。
パチスロのことなんて別に書かなくていいよ。田中にしか書けない文章があるじゃないか。そう言ってくれたパニックセブンの元ボスの言葉はたしかに僕の支えだったが、そのおっちゃんも数年前に亡くなってしまい、セブにいて葬儀にも参列できなかった僕は、先日、お墓参りに行ってきた。
生まれ故郷を一望できる、高台にあるお墓を前に手を合わせた。もしもこの人が生きていたなら、いまの僕を見てなんと言っただろう。
常識にとらわれず、「面白い」を大切にする人だった。僕にとっての面白いは、いま、どこにあるのだろうか……。引退前夜。東の空が、少しずつ明るみはじめている。
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