濡れ衣

　たとえば、コインランドリーの前でタバコを吸っていて、その場に一緒にいた中武先輩が警察官に職務質問されたとしましょう。きっと私も先輩の人となりや仕事、前科などについて色々聞かれると思いますが、私は何を聞かれても口を割らない自信はありますし、場合によっては不起訴の事実を隠蔽する、すなわち嘘をつく可能性もあります。それは何故かと言うと、中武先輩のことを夢グループの社長くらい尊敬しているからです。

　私がセブから帰国してしばらく経ってから少年にこんなことを聞かれました。本当はいつ帰国したのかと。葉っぱとかアンパンとか食っているのでしょうか。葉っぱは主に玉露でアンパンは主にこしあんでしょうか。少年が何を言わんとしているのか、まったく理解できなかったので、目を覚ませと強烈な張り手をお見舞いした後、詳しく聞いてみたところ、どうやら私が帰国日を詐称（妙子）しているのではないかと。そしてその動かぬ証拠もあると、奥様が言っているというのです。

　私が帰国したのは先月の26日。帰国したその足でとあるメーカーに行き動画を一本収録し、フラフラになって帰宅したことは別居こそしているものの、そこは家族なので当然知っているものだとばかり思っていましたが、どうもそうではないらしい。その一週間前に帰国してどこかのアバズレの家で季節はずれのアワビ物語を堪能していたはずだと言って譲らないのだそうです。って、季節はずれの海岸物語みたいに言うな。俺は鶴太郎か。

　少年は私のことを少しだけ、タバコを恵んでくれるところと安いメシをおごってくれるところだけは尊敬しているので多分勘違いではないかと言ったそうなのですが、じゃあこれは何だと。帰国する三日前と五日前に撮ったこの写真は一体どう説明するのかと、まるで不透明な政治資金を追及する舌鋒鋭い野党議員のように、かなり厳しく詰めてきたと少年は言うのです。少年、まったく関係ないのに。

　私のことは尊敬している。ただ、こうして複数枚に渡って動かぬ証拠が出てきてしまった以上、擁護はできなかった。特に父親は前科があるので絶対に違うとは言えず、その場から逃げてしまったと少年に言われたので目を覚ませと強烈な張り手を再びお見舞いしてやろうかと思ったのですが、冒頭で書いたコインランドリーの例え話。確かに、いくら尊敬する中武先輩でもケツポッケからパンティが出てきてしまったら口を割らない自信はあるものの、ケツを割って逃げ出す可能性は充分あるなと。