青山をナメるな

　来春、就職する少年がひとり暮らしを考えているようです。理想は港区青山の1LDKで家賃は八万円前後。日当たりが良くてスタイリッシュで写真を見せたらズベタがホイホイついてくるような部屋がいいとのことなのですが、これまで一度も親元を離れたことがないからでしょうか。世間知らずとはよく言ったもので、家賃八万前後で青山の1LDKを借りられると思っていることがそもそもおかしいというか、狂っているというか、そんなこと千葉から出たことがない木更津の携帯ショップで働いている気狂い女子だって知っています。

※イメージです。あくまでもイメージ。

　頻繁に車が突っ込んでくる事故物件や夜な夜な天井から血が滴り落ちてくる血管住宅ならまだしも、青山でまともなところに住もうと思ったら家賃八万はやはり無理があるというか、相場を調べたら二十万前後だったので、建物の名前に荘がつく、きたな荘、くさ荘、げろはき荘といった悪く言えばひと間、よく言えばワンルームで妥協できないものかと聞いてみたところ、やれワンルームは圧迫感があってイヤだとか、やれ市原刑務所の懲罰房みたいでイヤだとか、前乗りで地方の古いルートインに泊ったときの私と同じことを言いやがるのです。まったく、どういう育てられ方をしたのか、親の顔を見てみたいものです。

※新橋駅午前0時、終電を逃し途方に暮れている土浦在住のサラリーマンみたいな目をしたこの男が少年の親です。

　青山のワンルームであれば十万前後で借りることが可能。これなら少年の給料でも払えそうだし、東京都や私個人の家賃補助制度を利用しなくても済むはずですが、ひとり暮らしの殿方、毎日のようにパソコンの前の椅子に座ってティッシュでポコチンを拭いている殿方ならお分かりでしょう。実際にひとり暮らしを始めるとなると家賃の他に管理費、そして入居する際の敷金と礼金が必要になります。

※DMMぱちタウンでなく、ガイドワークスでもなく、証券会社に就職するようです。

　家賃が十万だとすると実際には五十万程度用意せねばならないので、初任給で両親に富士そばをご馳走しようと考えているドケチなお前には難しいのではないか、青山を諦めて駅前の自転車が全部倒れている蕨とか綾瀬とか蒲田とか、治安の悪そうな街にしたらどうかと提案してみたところ「それは大丈夫」とよく分からない答えが返ってきたので、どういうことかと尋ねたら「青山なんだから敷金礼金は基本的に霊園でしょ」と意表を突いたひと言が返ってきて、思わず膝を打ってしまったとなると、多分、初期費用は全額私が負担することになるのでしょう。クソが。

※口癖は人の金で食うメシは美味い。人の金で飲む酒は超美味い。