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諸積ゲンズブール

サウナ道 27

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公開日: 2020/11/05

汗腺がブッ壊れたんじゃないかと思うほど汗が噴き出すアウフグースもいいけれど、自分のペースで湿度を調整できるセルフロウリュもまた格別で、今なおアウフグースサービスを中止しているサウナが多いこの状況下では、セルフロウリュの有無はサウナ選びに大きく影響します。

 
しかしそんな状況だからこそ、セルフロウリュのメンテナンスもこれまで以上に大変なようで…。
 
 
先日、セルフロウリュ目当てでとあるサウナに行った時のこと。
 
ここのサウナ室は広すぎず、天井は低めに設定されているため、サウナストーンに一杯水をかければたちまち蒸気が身体を包み、汗が噴き出します。薄暗い室内で、ジュワッと音を立てるサウナストーンをBGMにして瞑想すれば、もうそれだけでととのってしまいそうになるほど。広いサウナ室内でおこなうアウフグースでは、この感覚は得られません。
 
 
サウナ室に入ると、先客は四人。おじいちゃんが一人と、30〜40代と思しき男性が三人いました。
 
 
 
あちゃ〜、先客がいたかぁ。
 
 
 
セルフロウリュ好きの方ならご理解頂けると思いますが、セルフロウリュはできれば一人で楽しみたいもの。同室者がいれば当然自分一人のペースで水をかけるわけにはいきませんので、その魅力は半減してしまいます。水をかける際も、ロウリュ失礼しますと周りの方に一声かけるのがマナーです。
 
 
 
仕方ない。声をかけてロウリュさせてもらうか。
 
 
 
そう思い、桶を寄せて柄杓に手をかけた瞬間
 
 
 
「それ、水をかけたら温度が下がりますよ」
 
 
と、奥に陣取っていたおじいちゃんがいきなり声をかけてきました。
 
 
え? ロウリュしたら温度が下がる? え? まさかこのジジイ、ボケてんのか?
 
 
意味がわからず言葉を失う僕に、ジジイは続けます。
 
 
「水のかけすぎで壊れてるんですよ。サウナストーンが。ほら、下に水が溜まってるでしょ?」
 
 
ほら、と言われても薄暗い室内では確認できないし、そもそも囲いの中にあるサウナストーンの下部など見えるはずがなく、「あ、あぁ…」と言葉を発するのが精一杯です。
 
しかしそんな僕の疑いの目を察したかのように、ジジイはわざわざ席を立って、サウナストーンの前までやってきました。そして、サウナストーンから30センチほど離れたところに手をかざし
 
 
「ほら、全然熱くないんですよ。だから水をかけてもジュワッと音がしない」
 
 
う、うーん…。なんだかジジイの言っていることが本当のような気がしてきました。そこまで手を近づけたら、多少なりとも熱さを感じるはずです。言われてみれば、なんだかサウナ室内の温度がいつもよりヌルい気が…。
 
 
なんて思いながら
 
「そうなんですか」
 
と残念そうに返し、手で軽く桶の水をすくってサウナストーンにひょいとかけると
 
 
 
…ジュワッ
 
 
 
あれ!?
 
したよね!?
 
音したよね!?
 
遠慮がちにジュワッて!?
 
 
空耳じゃなかったよな、いま確実にサウナストーンが音を立てたよなと、同意を求めて他の三人に目をやると、皆が皆、笑ってはいけないシリーズのココリコ遠藤のような表情で下を向いています。
 
とはいえ、事実がどうであれここまで言われたらセルフロウリュなんてできるはずがありません。今やったらジジイの話をまるで信じていないことになるし、仮に無事セルフロウリュができたとしても、ジジイを怒らせてしまうことになりかねないし。そんなわけで、とりあえずここは納得したフリをしておくことにしました。
 
 
そして、ほどなくしてジジイがサウナ室を出て行ったので、真意のほどを確かめるべく残った四人を代表して僕がサウナストーンに水をかけると
 
 
 
ジュッ…!
 
ジュジュッ…!
 
ジュジュワ〜ッ…!
 
 
いつものように、いや、いつも以上に心地良い音を立てながら上がる蒸気に室内の体感温度はグッと上昇し、その瞬間、やっぱりジジイの話は嘘じゃねぇかともう一度他の三人に目をやると、全員下を向いて笑いをこらえていたので、僕もつられて吹き出してしまいました。
 
 
全員、アウト〜
 
 

 

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