種蒔きと収穫・元クズ田中
記事一覧へ公開日: 2017/07/22
僕が実際に住んで感じた印象をもとに言うならば、フィリピン人というのは、非常に親日的である。もちろん、第二次世界大戦において日本軍がフィリピンに侵攻した歴史的背景はあるし、戦いの舞台となったセブにほど近いレイテ島という島に住む、特に年配層の中には、いまだ日本にネガティブな感情を持っている方も少なからずあると聞く。だけど、彼らの大半は日本に対して非常に好意的だ。
その大きな理由としてアニメという日本文化があり、桜や富士山といった日本が誇る自然美がある。ナルトやワンピースを通して日本語を覚えた特に若い層は多いし、桜や富士山を見たいがために日本を訪れるフィリピン人は後を絶たない。そういったものが親日を促進させる要因にはなっているのだろうが、やはり一番の要素は、人と人とのつながりなのだと思う。
レイというフィリピン人の男がいる。彼は僕が昔に住んでいたセブのアパートのオーナーでありお隣さんだったのだが、日本が、日本人が大好き。何度も家に呼ばれて酒を飲んだし、普通であれば毎年家賃は値上がりするところを、日本人ということで値上げしないでくれてもいた。あるとき、なぜそこまで良くしてくれるんだと尋ねたら、彼はこう言った。
昔、とある日本の大きな会社の会長さんとセブで出会い、大変お世話になった。その恩をいまでも感じているから、オレは日本人が好きだし恩返しをしたいんだ。
彼は日光にゆかりのあるその会社に敬意をしめし、最初に生まれた息子をニコと名付けた。
いま僕が受けている親日という状況は、初めからそこに存在したものではなく、先人たちが築いた歴史であったり、関係性の上に成り立っている。そこを勘違いしてフィリピンを我が物顔で歩く傲慢な日本人も中にはいるが、そういった連中は1年もすれば必ず消えている。
これまで僕もそういった感覚はあまり持っていなかったのだけど、海外に出て、自分が外国人となって生活を始めたことで、自分のいま置かれている環境が当り前ではないということをあらためて実感するようになった。僕が実家のご近所さんに良くしてもらっていたのは家族がしっかりと関係性を築いていたおかげ。こうやってここで文章を書いているのもDMMとの関係性を築いてきた先輩方のおかげ。来店や収録でお金をもらえるのも、苦しい時代でもこの業界を牽引してきた方々のおかげ。
誰かのおかげでいまの自分があるのなら、僕がすべきことはきっと、次の誰かのためへのアクションなんだと思う。自分が蒔いた種はすべて自分が収穫したいというのもいいが、自分だけの作業となると1馬力しかない。自分が10蒔いて10すべて収穫するよりも、10の種を蒔いて1だけ収穫して、残りの9は誰かにあげる。そのかわり、必要なときに他人の蒔いたものの中から、そのときに必要な物を収穫させてもらえばいい。僕にしか蒔けない種があるのかもしれないし、僕には蒔けなかったものをもらうことだってあるだろう。
自分のできることを精いっぱいやろう。できないことはできる人に助けてもらおう。そう思えれば人生の選択肢は増えるし、気持ちもずっとラクになる。
今月の末に日本へ行くことになったから、東京を案内してくれないか。そんなメールがレイから送られてきた。屋形船に乗ったら喜んでくれるかなあ。そんなことを考える時間が、ことのほか楽しい。
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