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元クズ田中

大人の階段・元クズ田中

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公開日: 2017/06/02

大丈夫ですか!? もしもーし、大丈夫ですか!?

 

身体を揺すりながらそう問いかけてくる声で目を覚ますと、目の前には心配そうな顔をした若い女性の姿があった。

 

は…………い?

 

状況が飲みこめずに呆然としていると、女性はあからさまに不快な表情を浮かべて、足早にその場を立ち去った。その表情からは、僕を揺り起こしたことへの後悔が滲んでいた。

 

いったい、ここはどこなのだろう。身体を起こしてみると、目の前には西武新宿線の下落合駅があった。スーツ姿の大人がとめどなく改札に吸い込まれていくのを見るに、恐らくは出勤の時間帯なのだろう。時間を確かめようとポケットの携帯電話を取りだそうとしたそのとき、突如として吐き気をもよおした。

 

大人たちの冷たい視線を背中で感じながらも、胃の底から突き上げてくる酸っぱい青春を吐き出し、頭の中を整理する。たしか昨日は新宿でパチスロを打ち、そのまま飲みにいった。終電で帰ればいいものを、おじさんがひとりで営む行きつけのカラオケスナックへ寄ったことで終電を逃し、仕方がないから始発で帰ろうとした。ここまではわかる。だけどもなぜ、自宅の最寄り駅よりもずっと早いこの駅で降りることになったのだろう。

 

ふと視線を移すと、そこには早朝に吐き出したであろう、夏の太陽に照らされカピカピになりつつあった、数時間前の酸っぱい青春があった。……なるほど。

 

西武新宿駅からの始発に乗ったものの、すぐさま吐き気をもよおし、次の駅である下落合駅で急いで降りた。そして、改札を出てなんとかすっきりしたものの、そこで力尽きて寝てしまったと。それを見た通勤の若い女性が、具合が悪くて倒れているんじゃないかと心配して声をかけてくれたものの、起こしてみればただの酒臭いクズだったので、不快な表情を浮かべて去っていったというわけか。ナイス、推理。まさに名探偵……などと言っている場合ではない。

 

何年か前までは、これが僕の日常だった。人見知りでコミュニケーションに難がある僕は酒を飲むことによって自己を解放し、人とのかかわりを築いていった。幸いにも周りに同じように酒好きの人間が多く、またそんな僕たちを受け入れてくれる方ばかりだったのであまり気にしなかったが、酔いつぶれて誰かに迷惑をかけることは、日常だった。

 

ガイドに入るきっかけとなったのは第1回ババメナイトでの泥酔だったし、好きだった彼女と出会ったのも泥酔してほとんど記憶のない状態だった。酔った僕を面白がってくれる先輩から仕事が回ってくることもあったし、僕の人生は酒と共につくられたといっても過言ではない。

 

田中くん、酒の失敗なんて、そんなものは失敗でもなんでもないんだよっ‼ 泥酔してそう言った友人の言葉をかっこいいとすら思ったものだが、時は2017年。平成も29年になろうかというこの時代に、言い訳は通用しない。酒で記憶をなくしたばかりに人生を棒に振るなんてニュースは世に溢れているし、次が自分でない保証はどこにもない。

 

僕は酔って語る自分自身を信用している。それは、マグマのように内に秘めた熱い、たしかな想いだと思う。だけど、酔って記憶をなくした自分自身は信用していない。

 

お酒によって僕の人生はつくられてきたが、お酒によって人生が終わることだってある。そのことを、肝に銘じておかなければならない。

 

人は嬉しいことがあったとき。設定1なのにヒキだけで万枚でたとき。500円で2回しか回らないからヤメようと思ったらその2回転目で確変に入って15連したときに、テキーラで祝福をする。いつだってお祝いとテキーラは一心同体だったが、僕も、もう大人だ。

 

というわけで、誕生日祝いで飲んだテキーラは、昨日で卒業。いまにもほとばしりそうな酸っぱい青春を抱えながら、次回の万枚はウイスキーでしっぽりと祝える、そんな大人になりたいと思います。

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