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元クズ田中

ハッピーフライデー・元クズ田中

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公開日: 2017/06/30

各方面への支払いに頭を悩ませる僕にとっての苦しみの月末は、ワーカーにとっては喜びである給料日の金曜日。まだお昼だというのに気の早いヤローどもはそわそわし始め、あらゆる道で地獄の大渋滞が巻き起こる。そんな渋滞をバイクですり抜けていたら、前方でドンという衝撃音が鳴り響いた。

 

渋滞をどうにか回避したいと、誰しもがそう思う。特に強引なフィリピン人ドライバーは少しの隙間があれば車の頭を押し込んでアピールをしてくるが、猫のように頭が通ればケツまでスルッと間をすり抜けられるわけもなく、お互いが譲らぬ主張を通した結果、ドン。フィリピンでは事故の際に車をひとまず路肩に移すということができず、現状を維持したまま警察の検証を待たねばならないため、そこを起点に、さらなる地獄が始まっていくことになる。

 

フィリピンの渋滞と田舎のパチ屋のグランドオープンには、譲り合いの精神などというものはない。新台を確保するために並んでいる者を脅し、スカし、己のポジションをひとつでも前に進めるためにはあらゆる手段を駆使するわけで、そこにはマナーもルールも存在しない。

 

マナーというのは明確に定められたルールとは違って、そのなかでの共通認識によって変化していくものだ。その昔、誰もがドル箱のコインを詰めるためにドル箱シェイクを良しとしているホールがあった。そこでは老いも若きも男も女も、ビッグのBGMに合わせてリズムを取るようにドル箱をガシャガシとシェイクするのが当り前。ババアのガシャガシャ音を聞いてはみんなが良かったねと微笑み、ヤンキーの激しいガシャガシャを、大人たちは優しく見守る。ふたつ向こうのシマでもガシャガシャ音から誰が当ったか判断のつく、そんなホールで育った僕からすれば、ドル箱シェイクをマナー違反と断じるのはナンセンス。それが許されるコミュニティだって、たしかに存在するのである。

 

もちろん、マナーと違ってルールは守らなければならない絶対的な規則であり、法律であるからして、これを破るのはもってのほか。交通ルールを無視して違法な追い越しをした者にはペナルティが課せられて当然だが、ルールとマナーというのは、(本当は明確な違いがあるのに)時として同じように語られるもの。だとしたら、果たして事故渋滞でまったく進めなくなったために入った、たまたま事故現場の前にあったカフェの店員は、どう裁けばいいのだろうか。

 

15分も前にキャラメルマキアートを注文したはずなのに、カウンターの中で彼氏らしきと週末の約束について電話で話し続けているうら若き店員は、田中裁きではルール違反。禁固8か月に相当するが、その奥で先ほどからスマホゲームにいそしむ店長らしきを見るに、この店でのソレはルール違反はおろかマナー違反でもない模様。近くにパチンコ屋でもあれば駆け込みたいところだけど、給料日の金曜日では期待できそうもないし、ここはそもそもフィリピンだし。店員もすっかりキャラメルマキアートを忘れているようなので、渋滞が解消するまでダニのいそうなソファで横になろうと思います。おやすみ、ハッピーフライデー。

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