上乗せ確定・元クズ田中

面と向かって伝えるのはなんだか照れくさい。だからといってメールで伝えるのはちょっと軽薄な気もする。そんなときに、人は手紙を送る。

思えば僕も、手紙というものをこれまで何度か書いてきた。付き合ったころの良い関係にひずみが生じ、ぎくしゃくした関係になってしまった彼女に対して。人生の道を踏み外しそうになっている友に対して。密かに思いを寄せていたあの子に対して手紙を送ったことは何度かあるが、そういえば、一度も返事をもらったことがないような気もする。

話せば消える言葉ではなく、手に触れることができないメールでもなく、考えながら一文字、一文字をしたためた手紙というのは、いまの時代には合わないのかもしれない。紙の無駄、人件費の無駄、郵便代の無駄。無駄無駄無駄無駄ァアアアアアア。たしかに全部無駄かもしれないが、やはり深夜ラジオのハガキ職人にはメールではなくハガキでネタを投稿し続けてほしいし、黒やぎさんには読まずに食べてほしいわけで、自分あての手紙というのは心が踊る。事実、今日、スタッフから僕あての手紙が届いているというのでウキウキしながら封を開けてみると、その手紙にはこう書いてあった。

Dear Mr. Tanaka

あなたが借りている部屋の契約が10月末で切れます。つきましては、もし契約を更新したいなら来月から、これまでの賃料に10％上乗せをした金額を払ってください。新たな契約期間は1年。来年以降も契約を更新するたびに賃料が10％上乗せされていきます。

これまで上乗せという言葉は、なによりうれしい言葉だとばかり思っていた。4桁上乗せ。セット数上乗せ。上乗せ特化ゾーン。上乗せとは人を幸せにする魔法の言葉だと思っていたのに、賃料上乗せ10％は僕のテンションを200％ダウンさせる悪魔の言葉。これは由々しき問題である。

現在65名の子どもが通うセブンスピリットのスタジオの賃料は、去年が48000ペソ(約10万3000円)。そして今年はその10％の4800が加算されて52800ペソ(約11万4000円)、そして来年は5280が加算されて58080ペソ(約12万5000円)。このペースで行けばあっという間に賃料は20万円を超えてしまう。

それを回避するためには、上乗せ失敗を願うしかない。上乗せするな、上乗せ失敗しろ、上乗せ反対。深い穴を掘ってそう叫ぼうとしたが、僕のスロッターとしてのDNAがどうしてもそれを許さないので、1月生まれのやぎ座男は、大家さんから送られてきたこのお手紙。読んでいないふりをして、食べてしまおうと思っている。