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元クズ田中

フィリピン脳

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公開日: 2017/10/27

日本に戻ってきて、一週間が経った。パチスロも打ったしアウトレイジも観た。たまごかけご飯はまだ食べていないがそれは明日にでも食えばいいし、塾長家で暮らしているから生活は快適だ。日本での生活に文句はないのだけど、それでも直線距離で3000キロ以上離れたセブから戻ってきているわけで、頭のチャンネルを日本式に切り替えるには少し時間がかかる。

 

帰国して間もないその日は午前中に一本、午後に一本の打ち合わせがあり、すべて終わったのが15時。まだ太陽が顔を出している時間だがまあいいだろうというわけで、鈴虫と飲むことになった。

 

後輩気質の僕は年下よりも年上の先輩と一緒に飲むことのほうが圧倒的に多いのだけど、それでも鈴虫とはサシで飲むことも多く、その日も駅前のパチンコ屋で待ち合わせ、昼間から開いている居酒屋で飲むことにした。

 

オッサン同士の他愛もない会話だ。その日もなにを話したかなんて覚えちゃいないが、仕事のこと、将来のこと、ガイドのこと。そんなことを恐らく話していたのであろう。話の流れからそういえばと、元ガイド編集部員、いまはガイドを手伝いつつ自身で将棋雑誌を作っているゲンク鈴木のことを思い出して連絡してみると、いまから行きますというので合流することになった。

 

ここまでは、良かったのだ。

 

お互いが近況を報告し合い、ひとしきり愚痴を吐き出し、すべてを出し切ったところで明日のために今日はもうあがろうと、そう言い合って駅まで向かったはずなのに、鈴虫を改札の向こうに見送ったあと、ゲンク鈴木が当り前のように言うのだ。もうちょっと飲みませんか、と。

 

まあ、ゲンクが日々、闘っているのも知っている。ひとり遅れてきたしまだ吐き出し足りないのだろうなと、うまいハイボールを飲ませるバーがあるのであと2杯だけ飲もうかと、そうやってまた酒場の方面に戻っていったのが運の尽きである。

 

ハイボールを飲ませる店は土曜の晩なのに開いておらず、それならばと適当に飛び込んだミャンマー料理屋で、たまたま居合わせた日本人女性と飲むことになり、終電がなくなり、気がつけば近くのカラオケバーでミャンマー人と踊っていた。

 

僕は泥酔すると外国人と踊りたがる傾向にある。この日も勧められるがままにウイスキーをストレートであおり、頭の中がかき回されるまで情熱的なステップを踏んでいたら、そこがどこだかわからなくなってきた。あれ? ここどこだっけ? フィリピンか? なんかそれらしき人たちもいるし、フィリピンだよな。あれれ? この日本人の女の子、誰だっけ? あれれれ? ゲンクどこ行った?

 

いろいろと考えようとしてみたが、頭が働かない。もうそんなこと、どうだっていいや。それよりも、この女の子ともっと一緒にいたいなあ。気がつけば、名前も知らないその子の手を取り、口説いていた。

 

アイラブユー、OK? まだ頭のチャンネルはフィリピンのままだ。愛してるとささやくのは日本人のメンタリティがストップをかけるが、アイラブユーは単なるアルファベットの羅列でしかなく、恥ずかしさを感じることもない。急にどうしたんですか。そう驚く彼女に、フィリピン脳がたたみかける。こんな素敵な女性を目の前にして、口説かない方がどうかしてると思わない?

 

フラれた。結果的にフラれたが、すがすがしい気分だった。言いたいことはちゃんと伝えるべきだ。失敗を恐れて立ち止まってどうする。オレは世界で闘うジャパニーズだ。そのときはたしかにそう思ったが、帰国から一週間が経ちすっかり日本のチャンネルに頭が切り替わったいま、あのときのことを思い出すと顔から火が出そうになる。なにがアイラブユーOKだ、バカ。

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