15枚の価値
記事一覧へ公開日: 2018/05/11
日本人にとって300円という金額は、居酒屋で出される食いたくもないお通しにかかる料金と同等。作り置きされたクソマズい菜っ葉を出されても、まあ別に食わなきゃいいやでギリやり過ごすことのできる金額だが、フィリピンの子どもにとっての300円は、日本のソレとはやはり違う。
5月にみんなでプールに行きたいから、いまからお金を貯めて準備してもいいか。セブンスピリットの子どもたちからそんな提案があったのは、3ヶ月ほど前のことだった。うちの団体はスタッフがこんなことをやりたいと思ったら、子どもたちがこうしたいと思ったら提案してもらい、予算だとか内容に大きな問題がなければどんどん取り入れていこうという方針なので、子どもたちのこの提案も受け入れることにした。
決まったのは、現地までの交通費はセブンスピリットがもつ。150ペソ(約300円)の入場料は子どもたちが3ヶ月で貯める。食事はそれぞれが家から持ち寄るという3点のみ。僕は自分自身が小さいころ、両親にキャンプや海、プールに連れていってもらったことがその後の好奇心や冒険心につながっていると思っているので、こういう課外活動は積極的にやっていきたいと思っているし、3ヶ月の中で子どもたちがお金を貯めていくというのは、とても良い経験だと思っていた。
そんな中、スタッフから話をされたのがプールへ行く前日のことだった。
「何人かの子どもがプール代を用意できなかったので、その子たちは明日、参加できなくなりました」
なぜその報告を前日にしてくるのかという気持ちもあったが、それよりも感じたのが、3ヶ月かけて150ペソが貯まらないという現実だった。
セブはマニラに次ぐフィリピン第二の都市で、最低日給は約750円。日本第二の都市である大阪の最低時給909円×8時間=7272円ということを考えると、賃金的にみればその差は約10倍。まあ、その他の物価を踏まえて感覚的に、フィリピンの150ペソ(約300円)は日本の1000円くらいだろうか。僕が小学生くらいのころはたまにもらう100円がお小遣いだったから、それをもらいながらもお菓子を買うのを10回我慢する……のは無理か。お母さーん、地域の行事があるから1000円ちょーだーい。それで済ませていた話だと思うのだけど、ここには、財布から300円を捻出することができない家庭がたくさんある。僕は普段、彼らを貧困層の子どもたちだとことさら意識することはないのだけど、その日暮らしの家庭において日給の半額というのは、けして小さい額ではないということだろう。
まあ、結果としてその子たちの入場料はこちらが立て替え、後日、お金が貯まったら持ってくるようにということでみんなプールには行ったんだけど(その子たちだけに奢ると不公平なので)、300円というのは、パチスロに置き換えると15枚役のスイカと同じ価値だ。
子どもたちは、注意散漫なばっかりに僕がスイカをバシバシ取りこぼしているのを知ったらどう思うのだろう。中リールを押す手がとまらず氷を取りこぼして、残念確定のロケットフラッシュをながめている僕を、どう思うのだろう。
彼らが大人になったとき、もしも日本に連れていくチャンスがあったなら、スロをやらせてみたい。かつて広石さんは、スイカを取りこぼした日は自分への戒めとして電車に乗らず歩いて家に帰ったというが、彼らが15枚役を取りこぼしたとき、なにを思うのか。1枚のロスも許さないパーフェクトスロッターは、こういうところから生まれるのかもしれない。
ライター・タレントランキング