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元クズ田中

キューバの夜

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公開日: 2018/05/25

メキシコシティ発、アエロメヒコAM453便の後輪が、ドスンという衝撃と共にキューバのホセ・マルティ国際空港、その滑走路についた瞬間に、ほぼ満員の機内から一斉に拍手がわき起こった。

 

たしか2011年にタイのバンコクからドイツのデュッセルドルフへ飛んだときも着陸時に拍手が起こったが、それ以来、二度目のこと。毎回、この路線では拍手が起こるのか、それともなにか特定の発生条件があるのかは定かでないが、ちょうどこの二日前、111名もの犠牲者を出したキューバでの航空機墜落事故がみんなの頭にあったのだろうか。事実、僕もその報道を目にしていたこともあって、着陸した瞬間には正直、ホッとした。

 

よほどの観光名所があるのなら別だが、基本的に僕の旅のスタイルは行き当りばったりだ。行き先を決めずになんとなく道を歩き、腹が減ったら地元の食堂でメシを食う。雨が降れば雨宿りをして、夜になったら地元の人間と酒を飲む。ただ、それだけ。

 

滞在のうち1日は、声をかけられたら断らないという自分ルールを設定して夜の街を徘徊してみたが、少し歩くと道でたむろしている陽気なキューバ人が「チーノ‼」と声をかけてくる。チーノとは直訳するとスペイン語で中国人という意味だそうだが、彼らにとってはアジア人はみんなひっくるめてチーノ。特に深い意味はない、挨拶のようなものなのだろう。

 

そんなやつらがひきりなしに声をかけてくるものだから、声をかけられたら断らないルール設定は大失敗(?)。数十メートル歩いては声をかけられ一緒にモヒートを飲み、その店を出て数十メートル歩いてはまた別のバーでモヒートを飲む。気がつけばさっき出会ったばかりのキューバ人と肩を組みながら旧市街を歩き、へろへろになりながら朝方に宿へと帰ったのだった。

 

※まだ夜の序盤に声をかけてきたキューバ人(左)。名前は忘れた。右の国籍不詳は同行した友人です。 

 

そんな夜の陽気な話を書こうかとも思ったが、その翌日は宿泊しているCASAという、民泊スタイルの宿主と部屋でゆっくりと飲むことになった。

 

※真ん中がアーメル。かわいい。彼女の肩に手を回せなかった、僕の意気地なし‼

 

宿の主はアーメルというキューバ人女性で、彼女とその妹、そしてそれぞれの彼氏、四人で暮らしているようだが、キューバを代表するラム、ハバナクラブを持参すると、彼女たちは快く招き入れてくれた。

 

 

冷凍庫で冷やした40度のラムをストレートでちびちびと飲みながら、それぞれが第一言語ではない英語でコミュニケーションをとっていく。キューバ史上最高の野球選手は誰かだとか(彼女たちいわくチャップマンとのこと)、野球のスター選手が次々と亡命してしまう悲しさだとか、WBCでのキューバ戦だとか、そんな話でひとしきり盛り上がったわけだが、ふとした流れから、お金の話になった。

 

キューバの平均月収というのは、日本円にして2000円くらい。もちろん社会主義国なので物資の支給があったり、教育や医療を無料で受けることはできるけれど、以前に働いていたときは月収が1400円だったらしく、豊かな生活とは程遠いとのこと。僕が持っていったラムは750mlで700円程度のものだったが、それでもこちらの人にとっては高級品なのだ。

 

とはいえ、いまでは国営ではなく少しずつ民営のレストランも増えてきているし、キューバに3泊するにあたって僕がAirbnbを通して彼女に支払った金額は、以前の給与に換算すると優に年収を超える。こういった変化にうまく乗れば大きなお金を稼げるチャンスでもあるんじゃないか。そう言うと、彼女はまだまだよと首を振った。

 

オバマがアメリカとキューバとの国交を回復させたことを受け、当時、キューバ国民も国が変わっていくという風を感じたようだが、オバマの後を継いだトランプが再び制裁を強化したことで、その勢いに水を差されたのだという。私たちキューバ国民の総意として、トランプを憎んでいる。あなたはトランプをどう思う?

 

強いラムで少し酔ったのか真剣な眼差しでそう聞かれ、me tooとしか答えられなかった。

 

キューバは、これから変わっていかなければいけない。力強い口調でそう言った彼女、そしてそれを聞いて、そうだと頷いた彼女の家族たちに、キューバ人の強さをみた。彼らにはフィデル・カストロの、チェ・ゲバラの血が流れているのだ。

 

日本の文化にとても興味があるの。いつの日かお金を貯めることができたなら、みんなで日本へ行ってみたいわ。

 

そう言ってまた、もとの優しい表情に戻ったアーメルを見て、幸せとはなんだろうかと考えた。お金では買えないものはあるが、お金があるからこそ実現できる未来もある。彼女たちの幸せとはなにか。そして、僕の幸せとはなにか。そんなことをぼんやりと考えた、キューバの夜だった。

 

あー、次はWBCの時期にきて、一緒に応援したいなあ。キューバ、大好きになりました。

 

 

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