安住の地を探して
記事一覧へ公開日: 2018/09/13
たとえば100台中、半分の50台に高設定が入っている店があったとして、朝イチにその店に500人も並ぶようであれば、それは僕にとって優良店ではない。100台中、10台しか高設定がなくても競争率が低く、かつクセの読みやすい店が僕にとっての優良店なわけで、いわゆる世間一般に周知された優良店というのは、その時点で僕にとっては優良店ではないわけだ。
だからこそ人があまり目を付けないような、駅から徒歩30分というような立地の店を、まるで宝探しをするような感覚で巡っていた時期があったのだけど、なにもそれはスロ屋に限った話ではなく、たとえば定食屋だったり、飲み屋も同じだったりする。
まだ見ぬ地に夢の島があると考える僕の前世はマゼランなのか。かわいい子がたくさんいると町で噂のキャバクラには見向きもせず、やれ上野のナイジェリアパブだ、やれ歌舞伎町のジャマイカンパブだと、プチボッタ店なのを承知の上で突撃して、勢いとノリだけで強引にボブ・サップのようなプチボッタ店の店主と仲良くなったこともあったが、ここ最近はセブのハズれにある、とある日式KTV、まあ平たくいえば場末のフィリピンパブに安住の地を見出していた。
こつこつと更地から耕したような店だ。飲みに行けば女の子がワッと歓声をあげることもあるし、知らない子がねっとりと腕を絡ませてくることだってある。ああ、ついに安住の地を見つけたのだと、硬いソファーにどっしり腰をおろして安い焼酎をちびりちびり飲みながら、ここを根城に新しい宗教を、田中教を布教して女性陣を取り込んでいこうと、そう心に決めていたわけだが、基本、誰もいない店に突如として入ってきた観光客と思しき若いイケメン日本人集団が隣の席に座り、その姿をチラと見た腕を絡ませている女の子が僕の耳元でこうささやいた。
あの人に一目ぼれしちゃったから、わたし、あっちの席につく。ごめんね。
いままで僕を、まるで教祖のようにたてまつっていた女性陣があっという間に散っていく様を目の当たりにして、田中教の布教を断念した。
マゼランはキリスト教を布教するべくセブの地にきて、セブの隣のマクタン島の酋長と戦って命を絶ったが、死ぬこともできず盛り上がる隣のテーブルを横目に安い焼酎を飲みながら行き場を失った僕はなんだ。前世はマゼランなどではなく、ヨットで大海に出たもののあっさり遭難した辛坊治郎なのか。
いくら見つけても、いくら開墾しても、あとからきた人々に力をもってすべてをさらわれるのは、スロもパブも同じ。世間に周知されていく優良店を横目に、再び僕は旅に出る。
※マゼランの侵略を阻止した酋長ラプラプ。セブの英雄の一人です。
ライター・タレントランキング