雨降りの路上より
記事一覧へ公開日: 2018/12/20
珍しく朝から降り続く雨と、クリスマス前の慌ただしさが織りなすマリアージュによって、今日のセブは地獄の様相を呈している。
1時間経ってもつかまらないタクシー。交通警察の気まぐれな手旗信号によって生じる大渋滞。投げ捨てられたビニール袋が排水溝に詰まることによってそこらじゅうに巻き起こるプチ洪水。
乗りたいものにも乗れず、行きたい場所にも行けないポイズンな世界に日本人なら思わずイライラするところだが、フィリピンの人たちは慣れっこだ。
雨が降っているなら、やむまで待てばいいじゃないか。そう言って路上で丸椅子を差し出してくる上半身裸のオヤジに言われるがまま、腰をおろす。
日本人か? クリスマスはどうするんだ? オヤジとそんな会話をしながら、路上にできた水たまりで泳ごうとする子どもたちを眺めていると、急いでいるのがバカらしくなってきた。
そもそも、本当に急がなければならなかったのか。明日できることは、別に明日だっていいじゃないか。通りかかったおばあちゃんが天を指さし、今日はもうダメだよと笑いながら首を振る。
おい、オヤジ。ビール持ってこい。もう、飲んじゃおうぜ。
※どんな状況でも悲観的にならないのは、一種の才能だと感心する(写真はイメージです)
こんな心境でいられたら、どんなにラクだろうか。ハーデスの天井間際で安い当りを引いても、トマトチャンスに失敗し続けても、台を指さし今日はダメだねと笑って言えたなら。
通り過ぎる若い女の子を舐めるように見ながら「ヒューイ♪」と口笛を鳴らし、オヤジは言う。
お前も、もっと見るんだ。セクシーな女は、しっかり見ないと失礼だろ。
女もぷりぷりとケツを揺らし、まんざらでもない顔で通り過ぎる。
ははは。顔を見合わせて笑ったら、今度はオヤジが天を指さし、ニヤリとしながら言った。
雨がやんだぞ。さあ、仕事の時間だ。
そう言ってオヤジは立ち上がり、丸椅子を手に持ち通りのカドを曲がっていった。
よし、オレも仕事に行くか。
ようやくつかまったタクシーに乗り、カドを曲がったら、さっきのオヤジがひとりで丸椅子に座っていた。
オレは知っている。あのオヤジは無職だ。
だけど、もしこのオヤジにパチスロを教えたら、きっとすぐにうまくなるだろうな。
丸椅子に座って、新たな女のケツを食い入るように眺めているオヤジを見て、ふと、そう思った。
あと一週間で、年の瀬の日本。今年はガイドの忘年会に出席します。
ライター・タレントランキング