健全な絶望
記事一覧へ公開日: 2019/09/07
なぜか思い出に残っている機種っていくつかあって、それは面白いとかとはまた別の基準で、記憶の片隅にいつまでも残っている。
ベルコのゴールデンベルという台が好きだった。音と光によって告知される完全告知機。左、中、右、いずれかのボタンを押した瞬間に不意に告知が発生するだけの、言ってしまえばなんてことのない台ではあるのだけど、この台がなぜか好きだった。
まだ僕がパチスロの仕組みを完全には理解していない時代の話だ。当然ながらボーナスの成立と告知音は完全に連動しているのだけど、なぜか僕はこの台に関しては、ボーナスが成立するか、もしくは告知音が鳴ればボーナスが揃うという、たとえボーナスが成立していなくとも告知音さえ鳴らせば当る台だと思っていて、特にお金がないとき、家の財布から500円玉ひとつをくすねてコイン25枚ぽっきりで勝負するときなどは、ボーナスと告知音のダブル抽選を信じ、各リールを停止させるごとに鳴れ、鳴れと念じながら打っていた。
タイヨーのハローサンタも記憶に残っている台のひとつだ。ハズレを連続で引くことでボーナスを放出するタイプのストック機で、ハズレの最大天井は18G。本来、コイン持ちを良くさせるための小役を、「引くな、引くな」と念じながら打ち、天井間際でベルを引いたらまたイチからやり直し。だけども、いかなる状況から打ち始めても、ハズレさえ引き続ければすぐさまボーナスに当選する仕様に魅力を感じ、これまたライターを始めて間もない、お金のない時期に祈るように一打、一打を叩いていた。
そうやって思うと僕は、お金がなくてなくてどうしようもない時期の、一打一打に念を込めて打てる台にこそ惹かれる傾向にあったのだと思う。
ぎりぎりの、なけなしの金をサンドに突っ込み、天に祈るような気持ちでレバーを叩き、そしてすべてを失って帰る道で感じる絶望感。家に帰って体育座りをし、机のカドをじっと見つめながら感じる虚無感。
ああ、これこそがパチスロだと、負けた人間にメシを食う権利などあるものかと自分を追い込み、今日たまたま勝ったわずかなお金を、明日の負け勝負に再び突っ込む日々。
健全化が叫ばれて久しい昨今の業界だが、そんな当時を思い出すだけで吐き気を催すような心情こそが、僕にとっての健全だ。
9月に入りフィリピンでは早くもクリスマス商戦がスタートし、街のいたるところでクリスマスソングを聴くようになった。
※フィリピンでは9月に入った瞬間からクリスマスがスタートする
ハロー、サンタクロース。当時の心境をふと思い出し、久しぶりに、あのときと同じ吐き気を催した。
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