
公開日: 2019/10/26
愛媛の量販店で19,800円の安いスーツを買った。まるで入学式のために初めてスーツを買う大学生のように、靴にベルト、シャツと上から下まで一式を買いそろえた。
もうすぐ39歳になろうというおっさんがなにを言っているのだといわれそうだが、数年に一度のペースでしかスーツを着ない男にとって、スーツを買う(または着る)という行為は、ひそかに大人になったような気分に浸れる瞬間でもある。なんだか少しテンションが上がってきて、大荷物を抱えたまま家とは反対方向にある駅前の高島屋まで歩き、7Fの北海道物産展で売られていた、卵がびっしり詰まった100gで800円もする小イカを買い、市バスに揺られて家まで帰った。
※100g・800円とだけ書かれていたので1パック買ったら、お客さんそれ200gですと言われ1600円取られた。やり口がズルいと思う
家に帰ると5リットルでいくらもしない安い焼酎を強炭酸とレモンで割り、日本シリーズを観ながら飲みはじめた。小イカをつまみながら。91歳なるおばあが炊いた煮物をつまみながら、ただ黙々と飲んでいると、21時には眠たくなってきた。こんな幸せもあるのかな。このまま明日からこのスーツを着てハローワークに通い、実家で生活をするのも悪くないなと思った。
たったひとつ違ったパズルがカチっと噛み合っていたなら、僕の人生は、愛媛の実家で飲むレモンサワーと共にあった。あのとき、あそこで引いたボーナスがバーじゃなくてビッグだったなら……。次々と投げられる人生の小さなパズルは、いったいどれがハマるかわからない。
来週、10月30日にフィリピンから48名の子ども(プラス8名のスタッフ)を日本へ連れていくことになった。
この経験が彼らにとってどんな意味を持つのかいまはまだわからないが、たとえいますぐじゃなくたって、10年後に手にしたパズルのたった1つのピースが、この日本での経験と、カチっとハマることだってあると思う。
※今回の日本行き最年少、ランス8歳
初めて自分で7を揃えたときの喜びだって、19,800円のスーツに袖を通したときの感触だって、100gで800円もする小イカがおいしくなかったことだって、市バスに揺られる帰り道だって、フィリピンのスラムから日本へやってくることだって。なんだって、のちにつながるナニカになるかもしれない。
そう。なにがどうなるかわからないからこそたくさんの経験をしたいし、させたいとも思っているが、ひとつだけはっきりとわかったのは、安いレモンサワーを飲みすぎるときっちり二日酔いになるということ。5リットルで3,000円の焼酎、このパズルだけは投げられても迷わず捨てろと、それだけは子どもたちに伝えておきたい。
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