着信あり
記事一覧へ公開日: 2019/11/28
打ち合わせ中に日本の知らない番号から何度も何度も着信があり、もしやなにかあったのだろうかと終わりで慌ててかけなおしてみたら、電話に出たのは保険の外交員で、田中さまにとてもお得なプランがあるのですがと、そうのたもうた。
ちみちみちょっと待ちたまえ。僕の電話のコール音を聞いて国際電話だということは、きっとおわかりいただけたはずだ。発信だけでなく着信しただけで国際料金が発生する、相手のそのマイナスすらも考えられないあなたが行うプラスの提案、そんなものに価値はあるのかい? いまにも出そうな言葉をグッと飲み込み、丁重にお断りして電話を切った。
相手がいま、どこで、なにをしているかわからない以上、緊急の案件以外は電話ではなくメール。近しい間柄でもラインのメッセージを残しておいて、手が空いたときに確認してもらう。相手の時間を無理やり奪うようなことをしないというのが現代社会におけるスタンダードになっているようで、たしかに僕自身も、そちらのほうがラクだと思う。
その昔、編集部とのやり取りはすべてFAXと電話で行っていた。何十ページにもおよぶ誌面のデザインを記したFAX用紙が巻物のようにぐるぐると電話機にまとわりつき、それを1枚1枚きれいにのばしたら、担当編集と電話で打ち合わせを進めていく。
このページは主にATの突入経路についての説明になります。まずは突入契機役を説明して頂いて、右下のカコミで数値的な補足をいれます。
などと、大きな特集になると1時間以上も電話口で説明を受けることだってあったが、いまではFAXのかわりにすべてがデータで届き、メールの文面に押さえておくべきポイントが4つ、5つ箇条書きにされているだけだ(あくまで僕の担当しているページでは)。
なんて効率的なんだろう。なんてストレスがないのだろう。たしかにそう思う。このやり方では100点のものはつくれないと思うが、70点から80点のものを効率よくつくるのであれば、この作業の進め方がベストだと、これは皮肉でもなんでもなく、本当にそう思う。
※そんな効率的な作業感のない、がっちり作りこまれた感満載のパチンコ滅亡論、楽しみだ
編集部との打ち合わせ電話がなくなって久しく、僕自身も誰かと電話で話すことがめっきり少なくなった。あの人の声ってどんなだっけなあと、声が思い出せなくなってしまった人も少なくないが、そんななか、酒井さん。ルーキー酒井さんだけはいまでもなにかあると、必ず電話をかけてくる。
おいっす、おいっす。あのさあ、田中。あれってどうなんだっけ。そんな会話から始まる電話の内容のほとんどはラインのやり取りで済むことで、移動でバタバタしているときなどは(うわー酒井さんそれラインで頼みますようわーうわー)と内心、思ったりもするのだけど、でもね。たとえばこんな、ラインで済むかもしれない電話に救われることってあるわけだ。
仕事の資金繰りに焦って心に余裕がないとき。スタッフとのやり取りがストレスなとき。得体のしれない孤独を感じているとき。僕は何度、酒井さんのそんな電話に救われたかわからない。
もう一度、FAXで編集とやり取りをする時代はさすがにやってこないと思うが、机にFAX用紙を広げ、余白にメモを書き込んでいたあの時間も、けっこう好きだったりはしたんだ。
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