合理と感情と

隣の席で、スーツ姿の男が足を組みながら、大学の後輩と思しき男2名に対して大きな身振り手振りをまじえて、自信ありげに話している。

やっぱりこれからの時代、オレのような一握りの人間になるためには、効果的に投資をしないとさ。いまこの案件に投資すれば利回りは何パーセントで、仮に何万円投資すれば何年後には何円になっていて。これはすでにデータで証明されているんだけどさ……

具体的な数字の話が出て、後輩はグッと身を乗り出す。

※スーツを着ても、漂うのは圧倒的仕事できない感

いまの時代、数字というものはなによりも真実を語る。メジャーリーグではデータ分析によってフライボール革命が起こり、ひとりの選手の存在がチームに何勝の上積みをもたらすのかも、すべて数値化されている。ぱちんこは回転数から期待収支を割り出すことができるし、パチスロでは連チャンやハマリの割合、モード移行や上乗せだって、すべて数値で知ることができる。

おっけーグーグル。僕がいま彼女に告白したとして、成功する確率はどれくらいだい？

今後どんどん、世の中はまるでゲームのようになっていくのだろうし、感情論ではなく数字によって合理的に判断することの重要性は、弱小ながら組織を運営する自分も、もちろん理解している。

アクセス数が伸び悩んでいるので、なにか手を打たないとこのままでは……。

DMMの会議室で、担当は申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。何年も続けてきてランキングに一度だって顔を出していないのだから、数字が良くないのはもちろん理解している。このまま続けてご迷惑をかけるのもあれですし、少し考えて、それでも打開策がなければ、そのときは……。

※誰もが見たくなる未来、かあ

そう言って六本木をあとにしたものの、打開策があればすでに実行しているわけで、無策。こうなったら僕の握っているライターの下半身事情をひとつずつ暴露してしまおうかと、塾長おじさんにそんな話をしたら、おじさんは北上野の居酒屋で、薄めのお茶ハイを飲みながら言った。

暴露話はオレがこの業界を辞めるときに全部書くことにしてるんだよ。お前はとりあえず、書ける場がある限りは書き続けろ。オレが読みたいんだから、書け。

合理的とはかけ離れた、ごりごりの感情論。

お前、次はいつ日本戻るんだ？ 今月末？ だったら今月末に久しぶりにディスクアップでも一緒に打つか。一緒に打って、お互いの視点で実戦記でもとりあえず書くか。

※前線を離れてはや10年。果たしていま、僕はビタ押しをどれくらいできるのでしょうか

そんなわけで今月末にはおじさんと一緒にディスクアップを打とうと思っているので、よろしくお願いします。あと、酔った勢いで、セブに船を3艘買って、マリン業者に貸し出して収入を得ようと言っていたので、それもお願いします。あと、あと、金出すからセブで焼き肉屋をやろうとも言っていたので、それもお願いします。

隣の席では来週のセミナー参加が決まり、がっちりと握手をして、後輩の大学生は帰っていった。ふぅ……。スーツの男が大きくため息をついたその直後、ほとんど入れ替わりでやってくる、次の大学生。

やっぱりこれからの時代、オレのような一握りの人間になるためには、効果的に投資をしないとさ――

いけすかないと思っていたスーツ男に、少し親近感を覚えた。さあ、生きよう。