先輩と後輩

後輩にはカネを出させない。

初めて一緒にゴハンを食べにいった際、そう言い放って気前良く代金を支払ってくれた鈴虫さんの言いつけを守り、ファミレスだろうと焼肉だろうと、僕は後輩を連れて飲みにいった時にカネを出させたことはありません。オネエチャンのいるような高っけぇ店はワリカンだけど。

奢るというおこないは、非常に気持ちの良いものです。いいよいいよと言いながらサッと会計を済ませたなら、後輩達は「いつもすんません！」なんて頭を下げて、そんな姿を見ながら僕はといえば「すんません、じゃなくてありがとう、と言ってくれよ」なんてキザな台詞を吐いて足早に歩き出す。その時は、その時だけはまるでビートたけし師匠にでもなったかのような気分に浸れ、後輩達は後輩達でまたこういったおこないを未来の後輩達にやってやるんだと奮い立つわけです。

この業界にもだいぶ年下が増え、そういった機会も多くなってきました。特に、定期的に行っている福岡県でのレバーオン収録時には、毎回初日の収録終わりにみんなと飲みに行きます。レギュラーメンバーの中ではJOE君とミッチーが年下にあたりますから、彼らを連れて行く時は当然カネを出させないようにするわけですが、先日、こんなことがありました。

ゲストやディレクターを含めた数名での飲み会を終えたあと、よっしゃ2軒目行くかとJOE君とミッチーを引き連れて中洲の街を闊歩していると、彼らが急にいそぎ足になり、気が付けば僕の視界の遥か先を歩き出しまして。
おいおいなんだ、バックれようとしてんのかよ。百歩譲ってバックれるのはいいとしても、バックれ方が雑すぎるだろ、などと思っていると、程なくして2人は戻ってきました。手にはソフトクリームを持って。

そしてそのソフトクリームを僕に差し出し、「ゲンさん、酒飲むと甘いの食べたくなるから買ってきました。これは僕らの奢りです」なんて言うんです。

もうね、涙腺崩壊とはまさにこの事。後輩の気遣いに、涙腺ブワァァァァですよ、ブワァァァァ。まぁ、実際はこれっぽっちも泣いてませんでしたけど。

とはいえ、めちゃくちゃ嬉しかったのは事実。現に、酔っ払っているにもかかわらず、しっかり写真を撮っているわけですから。

後輩にはカネを出させない。
昼間に5万負けていようが1週間で20万負けていようが、鈴虫さんからの言いつけを守って見栄を張り続けた結果、決してカネで買うことのできない、素敵な気持ちになることができました。

ちなみに、鈴虫さんとメシを食う時は数年前からワリカンになっています。