真っ直ぐな欲望
記事一覧へ公開日: 2018/06/08
僕はお金を稼ぎたいんです。お金を稼ぎたい理由は、ただひとつ。女の子にモテたいから。けしてイケメンではない僕が女の子にモテて、セックスをするためにはとにかくお金がないと話になりません。セックスをする。これが僕のモチベーションなんです。
駅前留学の英語学校勤務、23歳の彼は仕事帰りの客でにぎわう居酒屋で照れることなく、さわやかな笑顔を浮かべて堂々とそう言った。20代の4割が童貞だともいわれるいまの時代に、これほど潔くこう言い切れる彼はよほどのバカか天才か。通っていた、いわゆるAランクに格付けされる大学を首席で卒業したとのことなのでアホではないのだろうが、去年の8月に童貞を捨てたという彼の目には、一点の曇りもなかった。
なにを食いたいかと聞かれてもなんでもいいですと、どこへ行きたいかと聞かれてもどこでもいいですと脊髄反射的に答える、AIロボットよりも意思のない僕は、それを聞いてなんと言えばいいのかわからず、ただ頷いていた。
でも僕みたいにベラベラ話すタイプは、やっぱりモテないですよ。田中さんみたいに余裕のある、うんうんと黙って女の子の話を聞いてあげる人に、最後のいいところは結局、ぜんぶ持っていかれるんですよね。
彼はそう言ったが、僕が黙ってただ人の話を聞くのは、余裕があるのではなくて話したいことがなにもないから。自分からテーマを決めて話を展開していくのが苦手だから、いつだって相手がどんどん話していけるように相槌を打ち続けているだけなのだ。
僕にだって高校を卒業した当初は、彼のように欲望をむき出しにしていた時期があった。金を稼いでいい車に乗りたい。いい女を抱きたい。うまいもんを食いたい。毎日、ハナビの設定6が打ちたい。自分以外は全員、設定1を打って負ければいい。根拠のない自信を拠り所に必要以上に攻撃的になったりもしたが、ガイドスタッフになり、誌面で観ていた憧れの、そしてアクの強い先輩たちとの空間に身を置くようになって、徐々に人に合わせる控えめな性格というのが形成されていった。いや、この姿こそが僕の本来の姿であり、作られた僕から本来の僕に戻った、というのが本当のところかもしれない。
時代を変えるのは、いつだって何事にもとらわれず欲求に向かってまっすぐに突き進むバカであって、僕のような人間ではない。マッパチってなんすか? そんな人間があらわれたときにきっとパチスロ必勝ガイドは新しい時代に突入するのだと思うし、そうでなければならないとも思うのだけど、目の前の23歳は時代を変える前にセックス、セックスと大声で連呼して店の空気をどんどんあらぬ方向に変えているわけで、ちったあ空気読めよと、さっき店に入ったカップルがもう帰っちゃったじゃないかと、店員さんの刺さるような視線にいたたまれない気持ちになる僕をよそに、他人の視線など微塵も気にしない彼は、どこまでも話し続けるのです。どうか変わることなく、そのままスケールの大きな人間になってください。
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